幻想埋葬師‐Lost Souls Forever‐
2005年 11月 05日
少年は、端的に言えば出来損ないだった。
低能な父から生まれた無能、それが大方の彼への評価だった。
実際彼は、その無能に加えて、根拠の無い肥大した自尊心と、矮小な人間性と、そして破綻した価値観を所持する、どうしようもなく腐敗した人間であった。
ある意味で、彼は被害者であった。
幼い時分、彼という人間の価値を決めたものは、生まれついての才能であったのだから。これに関しては、彼には一切の責任が存在しない類いの問題だった。
しかし、彼は実際のところ、幼少時代の彼の狭い世間の評価に比べて、有り余るほどの才能を所持していた。
それら全ては、一切開花する事無く、少年の中で腐り、消滅した。
両親は彼に注ぐ一滴の愛情も持たなかった。祖父もそうだった。
故に彼の価値観は歪んだ。才能をことのほか尊重するようになった。
崩壊寸前の自我を支えるには、少年は自身で太い支柱を作る他無かった。それは自身こそ才気に溢れた存在であるという、根拠の無い自尊であった。
故に輝かしい未来に溢れていた筈の少年は、ついに心まで泥土に堕ちたのである。
つまるところ、既に彼の人生は、生まれたその時点で終わっていたのだ。
長男であるはずなのに、“慎二”という次男を示す名を付けられた時に。
無限に連なる可能性の果て、そこにも彼は存在していた。
ここでも彼は出来損ないであった。唯一の差異は、それを親にさんざん刻み込まれていた点であった。
この無限の果てで、ついに彼はそれを求めることを止めた。感情を切り捨て、惰性で生きることに決めた。
結果、それが誰に対しても有益なことだと理解した。
ただそれでも万物は流転し、時は運命へと進む。
全てをかなえる願望の器。それをめぐる戦争が始まる。
「正気か、7人目のサーヴァントだと!」
「問おう、貴方が私のマスターか」
「理想を抱えて溺死しろ」
「先輩、どうして……」
「なんでよ、どうして貴方が……」
彼はまた道化を演ずる。どのみち主役とは程遠い身と理解していた。
自分には先が無いとも理解していた。
「シンジ、貴方は聖杯に願うことがあるのですか?」
「別に無いな。しいてあげるとすれば……」
だから、彼はもう、本当にどうでもよかったのだ。
「僕をこの世から消して欲しい」
―――だからこそ、もう感じることすらなくなった。
それは幾度となく繰り返した世界の果てで、
―――求めることにも疲れ果てた。
擦り切れた男が謳う歌。
―――欲しかったものは一つだけだけれど、それももう手に入らない。
無価値な男が奏でる挽歌。
―――もとより何も持たない男には、何を手に入れることもできない。
奇跡など起こらない、ここにいるのは只の人間。
―――希望の果てにあるのは絶望。絶望の最中に生まれるは希望。
主役達にとってみれば単なる路傍の石であり、邪魔なだけの障害物。
―――連鎖の向こうにあるのは伽藍。気づいた時には既に遅く。
結局、彼自身の最初において最大の罪とは、
―――積み上げた罪の山に、この幻想を埋葬しよう。
この世に生まれ堕ちたことなのかもしれない。
この物語に“英雄”はいない。
「そんな夢を見た」
「……衛宮、そいつは災難だったな」
低能な父から生まれた無能、それが大方の彼への評価だった。
実際彼は、その無能に加えて、根拠の無い肥大した自尊心と、矮小な人間性と、そして破綻した価値観を所持する、どうしようもなく腐敗した人間であった。
ある意味で、彼は被害者であった。
幼い時分、彼という人間の価値を決めたものは、生まれついての才能であったのだから。これに関しては、彼には一切の責任が存在しない類いの問題だった。
しかし、彼は実際のところ、幼少時代の彼の狭い世間の評価に比べて、有り余るほどの才能を所持していた。
それら全ては、一切開花する事無く、少年の中で腐り、消滅した。
両親は彼に注ぐ一滴の愛情も持たなかった。祖父もそうだった。
故に彼の価値観は歪んだ。才能をことのほか尊重するようになった。
崩壊寸前の自我を支えるには、少年は自身で太い支柱を作る他無かった。それは自身こそ才気に溢れた存在であるという、根拠の無い自尊であった。
故に輝かしい未来に溢れていた筈の少年は、ついに心まで泥土に堕ちたのである。
つまるところ、既に彼の人生は、生まれたその時点で終わっていたのだ。
長男であるはずなのに、“慎二”という次男を示す名を付けられた時に。
無限に連なる可能性の果て、そこにも彼は存在していた。
ここでも彼は出来損ないであった。唯一の差異は、それを親にさんざん刻み込まれていた点であった。
この無限の果てで、ついに彼はそれを求めることを止めた。感情を切り捨て、惰性で生きることに決めた。
結果、それが誰に対しても有益なことだと理解した。
ただそれでも万物は流転し、時は運命へと進む。
全てをかなえる願望の器。それをめぐる戦争が始まる。
「正気か、7人目のサーヴァントだと!」
「問おう、貴方が私のマスターか」
「理想を抱えて溺死しろ」
「先輩、どうして……」
「なんでよ、どうして貴方が……」
彼はまた道化を演ずる。どのみち主役とは程遠い身と理解していた。
自分には先が無いとも理解していた。
「シンジ、貴方は聖杯に願うことがあるのですか?」
「別に無いな。しいてあげるとすれば……」
だから、彼はもう、本当にどうでもよかったのだ。
「僕をこの世から消して欲しい」
―――だからこそ、もう感じることすらなくなった。
それは幾度となく繰り返した世界の果てで、
―――求めることにも疲れ果てた。
擦り切れた男が謳う歌。
―――欲しかったものは一つだけだけれど、それももう手に入らない。
無価値な男が奏でる挽歌。
―――もとより何も持たない男には、何を手に入れることもできない。
奇跡など起こらない、ここにいるのは只の人間。
―――希望の果てにあるのは絶望。絶望の最中に生まれるは希望。
主役達にとってみれば単なる路傍の石であり、邪魔なだけの障害物。
―――連鎖の向こうにあるのは伽藍。気づいた時には既に遅く。
結局、彼自身の最初において最大の罪とは、
―――積み上げた罪の山に、この幻想を埋葬しよう。
この世に生まれ堕ちたことなのかもしれない。
この物語に“英雄”はいない。
「そんな夢を見た」
「……衛宮、そいつは災難だったな」
by rockaway-beach
| 2005-11-05 15:42
| 嘘予告。